年商1億の会社の従業員数…何人が最適?財務のプロが解説

先日ある社長さんからこんな質問をいただきました。

「今3人の会社で、自分が会社のほとんど全てを回してますが、もう手一杯です…。事業を拡大したいと思っていて、人を増やさなきゃって思っているんですが…、今の規模から年商1億を目指すのに、従業員は何人くらいがちょうどいいんでしょうね?」とのこと。

その方には、その方の業種で最適な数字をお答えしましたが…

  • 自分は従業員を抱えすぎなのでは?
  • 事業を伸ばしていきたいけど、何人までなら大丈夫?
  • 今の手一杯の状況がいつまで続くのか?

こういった疑問は、多くの経営者さんが人知れず不安に思っていて、誰にも相談できずに悩みを抱えている、難しい問題だったりします。

実際こういった不安はとても真っ当で、中小企業の経営が傾く大きな原因が「売上と見合わない数の従業員を雇いすぎ」…ようは、人件費によってお金が足りなくなり、赤字経営に陥るケースが少なくありません。

そこで今回は、年商800万円から年商500億を超える上場会社の役員まで、累計35業種のビジネスの財務顧問を務めるビジネスパートナーに聞いてみました。「年商1億の会社の従業員数は何人が最適なのか?」正解ではなくても「安全・安心」の状態をつくれる答えらしきものを記事にしたいと思います。

厳密に言えば「業種によって違います」が答えになってしまいます。ただ、できる限り業種に関わらず使える判断の目安を示してみたいと思いますので、ぜひ最後までお付き合いくださいね。

また、人を雇うにしても、私たち中小企業経営者には次なる問題が降りかかってきます。そう「どんな人を雇うか?」です。多くの経営者は、次の二択を迫られます。

  1. 営業もできる人を雇うか?
  2. 営業を一切しない裏方を雇うか?

いかがでしょうか?あなたはどちらを選びますか?
ある社長さんは「営業は自分が一手に引き受けるから、裏方だけ雇えばいい」と答えます。また別のある社長さんは「少しずつでもいいから自分以外に売上をつくれる人が欲しいから、営業ができる人を雇うよ」と答えます。

どちらも真っ当な意見ですよね。
なので「価値観の問題じゃないの?」と感じるかもしれませんが、このうち「2.営業を一切しない裏方を雇う」を選択した社長がことごとく苦労していることを私は知っています。私も実際過去に「2.」を選択して、大変苦労したことがあります。なので、今回はこの辺も合わせてお話ししていきたいと思います。

では、本題…

年商1億企業の最適な従業員数は…?

もったいぶらずに結論から言うと…
「ひとり当たりの粗利額が1000万円以上」
になるようにするとひとまず安心

というのが、私の考えです。

よくこの手の議論で「従業員1人当たり売上2,000万円以上が優良企業」という風な説が聞こえてくることがありますが、やはり売上を基準にすると業種によるバラつきがとっても大きくなってしまいます。

例えば…建設業と整体院とでは、仕入れも材料費も、全く違いますからね。
こういった商品をつくるのに直接必要な「原価」を差し引いた額の「粗利」を基準にした方が、実態にあった数字を出しやすいです。

実際の事例を使って解説

例えば、製造業を営んでいる年商1億円ほどの社長さんを例に考えてみましょう。

製造業の原価率(仕入れにかかる費用や材料費等)は、35%〜50%が相場。そうすると1億円の売上をつくるのに3500万円〜5000万円の原価がかかります。

※ ここでは「労務費と人件費との違い」といった会計ルールの細かい部分は割愛しています。純粋に商品をつくるのにかかる費用で「人にかかる費用でないもの」を「原価」。売上高から「原価」を引いたものを「粗利」として考えます(厳密に考えようとすると難しいですからね…こちらの方が会計ルールより実態に合ってると思います)。

とすると…粗利額は5000万円〜6500万円。
「ひとり当たりの粗利額が1000万円以上」を意識すると(粗利1000万円で割ると)社長含め社員は5人〜6人ほどが適切。従業員数で考えると、社長を除いて4人か5人ほどが安全・安心な数…ということになります。

年商2億を目指すのであれば、原価が1億円〜1億3000万円。
粗利が7000万円〜1億円になるので、社長を除き6〜9人ほどがひとまず安心な従業員数ということになります。

この数字以上に従業員を抱えていると正直シンドいです…。粗利から広告費や諸々の販売費、そのほかの一般管理費が出て行ってしまいますからね。さらに、従業員の給料は毎月固定費として出て行きます。すると、よほどキャッシュに余裕がない限り、徐々に苦しい状態に追い込まれてしまいます。

この計算方法であれば、売上規模に応じた従業員数を割り出せるので、実際にあなたご自身のビジネスで、原価率も算出してみて、計算してみてください。こういった情報は知っておくだけで、現状を正しく理解するのに役立ちます。現状を理解しているだけで漠然とした不安を抱えずに済みますからね。

適切な従業員数がわかったら
次は「どんな人を雇うか?」の大きな問題

ここも「ひとり当たりの粗利額」を元に考えると答えを出しやすいです。

  1. 営業もできる人を雇うか?
  2. 営業を一切しない裏方を雇うか?

大きく分けるとこの2択ですが、「2.」を選ぶ社長は苦境に立たされやすいです。なにしろ「ひとり当たり粗利1000万円」掛ける人数分を、社長1人で稼ぎ、維持し続けなければいけないからです。

「社長が、従業員を食わせるために従業員以上に朝も夜もなく働く」という話は、あなたもきっとどこかで耳にしたことがあるはずです…。

先日も通販ビジネスを新規事業で始めるからと、従業員を増やした会社の経営者の方の愚痴を聞きました(^^;)新しく雇った従業員の給料は既存事業で社長が足で稼いだ分から出ており、その状況がもう1年半も続いていると…。こういった事態に陥ってしまいます。

「社員を食わせている」と言えば、聞こえがいいですが…「現状維持で精一杯」とも言えます。すると利益を会社に貯めることもできなければ、事業を今以上に拡張して年商1億を目指す、ということも難しくなってしまいますよね。

こういった面からも、色々な考え方があるとは思いますが…
「1. 営業もできる人を雇う」と、社長の負担が小さくなり、その分、事業拡大に力を振り向けることができるようになります。

多くの社長が、目の前の忙しさを緩和したくて、雑務をやってくれる人を雇い入れようとします。…が、年商1億に手が届くまではそういった人を雇うのには慎重になったほうがいいかもしれません。

経理関連は経理代行業者や税理士に、給与や保険関係は社労士に、という感じでプロに外注したほうが安く済みますし、教育コストもかかりませんからね。ミスのない正確な仕事もしてくれますし、マネジメントする時間も不要です。

雑務はプロに安価で任せつつ、自社で雇うのは「現場で顧客フォローをしてくれて、そこで少しでも何かを提案できる人・販売ができる人」にした方が、結果的に売上アップや顧客満足度のアップにつながります。従業員ひとり当たりの粗利額も高められ、安全・安心です。

このポイントを押さえるだけでも、会社経営が随分ラクになりますよ。

もちろん最初から「営業要員」を雇う必要はありません

例えば、製造業であれば(まぁ業界問わずですが…)、売れるレベルの商品を作れるようになるのが先決ですからね。

ただ「人にモノを売るのがコワい」という人を雇い入れるのはキツくなるという認識だけでも持っておいて欲しいのです。そういった方はどんなに製造のウデが上がったとしても、営業を一切してくれない人材になってしまいますから。

それよりも「自分が作った商品の魅力を、専門家の立場から、お客様に語れるくらいの素養を持った人」を雇用する方が、後々会社全体の利益率も上がりやすくなり、社長もラクになりますよ、ということを知っておいてほしいのです。

社長の半分以下でいい、いや5分の1でも10分の1でもいいので、社員自身でお客様とコミュニケーションをとって、売上を作れる素養のある人を雇うことを強くオススメします!

さらに朗報ですが…
人当たりが良く、人と話すのが好きで、コミュニケーション能力がある人なら、販促物とかセールスツールをうまく作ってあげるだけで、売上をつくる力を比較的カンタンに伸ばしてあげることができます。

一切売ってくれない人の場合、こういった底上げも無理ですからね。この辺も、多くの社長さんが意識しないところですが、とても重要な部分だったりします。

(どんなにデキる従業員でも、普通の会社員に集客やマーケティングまでは無理なので、そこまで任せて潰してしまわないように要注意…。集客・マーケティングは社長の仕事です)

年商5億ほどのあるメーカーさんの事例

その会社では、事務担当が会計処理だけでなく店頭でお客様対応までします。その際、商品の特性をまとめたツールを使って、お客様がご希望の商品に加え、似たような金額のオススメ商品を紹介して、売上アップに貢献していたりします。顧客管理の中で気づいたことを営業担当に伝え、新しい販売戦略の可能性を見つけたりもします。

やはり中小企業では、こういった一人ひとりの「売上をつくる力」の積み上げが本当に重要で、会社全体の収益性を左右します。こういった積み上げを戦略的にできる経営者がいてこそ、企業価値が高まり、事業が安定するんですね。

さて、いかがだったでしょうか?

あなたもご自身の事業で「原価率」を出し、「ひとり当たり粗利額」を算出してみてください。そして、今の会社が最適な従業員数なのか、ぜひ考えてみてください。また、人を新しく雇い入れるときにはぜひとも「少しでいいから営業の素養がある人」を選ぶことを強く強くオススメします。

あなたの成功を心から願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

P.S.
製造にせよ、事務にせよ、営業ができて直接お客様の声を聞いている人ほど、良い商品が作れたり、適切な事務処理ができたりしますからね。中小企業が、個々人の仕事をあまり細かく区分けするのは良くないような気がします。ぜひ意識してみてくださいね。